「時計工業の発達(1985年)」より
本書は全3編で構成されており、第1編では欧米における時計産業の発達(時計産業黎明期~アメリカ時計産業の発展)、第2編では日本における時計産業の発達(明治時代)、第3編では精工舎の設立から発展(明治時代~関東大震災)を取り扱っています。関東大震災から太平洋戦争までの日本時計産業の発達は第二部に該当する書籍、終戦後からクオーツ時計の完成までの日本時計産業の発達は第三部に該当する書籍に委ねられているため、本書には含まれません。
出版の経緯から精工舎中心の構成ではありますが、欧米時計産業史の文脈から日本の時計産業史を読み解くことができるという点で時計史マニアにとって読み甲斐のある内容となっています。加えて、本書には名古屋と大阪における時計産業史というマニア好みな内容も含まれており、この部分だけでも読む価値があると思います。
最後に著者の内田星美氏を紹介しておきます。内田氏は東京大学工学部と経済学部を卒業した後に商工省へ進み、産業研究に携わった方です。著書を読んでいても、工学と経済学を学んだ経歴がまさに活かされていると感じる分析が非常に多く感服します。各社からの要請に応える形で、社史編纂にも携わった様ですね。氏の著書は技術や産業に関する分野を横断的に深く広く掘り下げるものが多いです。時計以外にも繊維や金属関係の研究も行っていた様で、著書も多く残されています(1950年代に日本繊維経済研究所に在籍していた関係からか、繊維産業に関する研究は特に熱心に行っていた様です)。そのため、「時計史研究家」ではなく、「産業史研究家」と呼ぶ方が正確でしょうね。氏は2005年に交通事故で亡くなっていますが、最近まで存命であっただけに、それなりの規模の図書館へ行けば著作にアクセスすることは容易です。